2024/04/25
数年前に家内と京都の八瀬離宮に宿泊したことがある。それは、3月初旬の寒い日だったと思う。朝食をすませた後、宿舎から近い八瀬もみじの小径を散策した。瑞々しい青もみじが芽吹いてそれが朝露に濡れて光っていた。ここから高野川沿いを南に10分ほど歩くと瑠璃光院に着いた。ここには「瑠璃の庭」があって、瑠璃色に輝く浄土の世界が表現されているこの庭を二人で粛然と歩いたことを思い出す。目を比叡山のほうに向けると山の端には白い雲が覆っていてその上に海のように青い空が広がっている。その青い空の真ん中に横雲が棚引いている。何処からともなく、鳥の鳴き声が聞こえてくる。このような状況に置かれて、私は孟浩然作「春暁」を思い出した。春眠暁を覚えず、処処啼鳥を聞く。夜来風雨の声、花落つること知る多少。(春の明け方ぬくぬくと布団の中にいるとあちこちから鳥のさえずりが聞こえてくる。そう言えば夕べは風雨の音がひどかった。花はどれだけ散ってしまっただろうか。)「春暁」とは俳句の季語としても知られている。春の日の明け方から早朝を意味する言葉である。
ところで、私は2月5日の月曜日、福山のホテルで開催された銘酒会に招待された。この時、銘酒を味わる前にクロフネカンパニー代表取締の中村文昭さんの講演「お金でなく、人のご縁ででっかく生きろ!」を拝聴した。コロナが昨年5月8日から第5類感染症になったので制限が緩くなった。最近ではインバウンド客が増加し、日経株価もバブル時代の株価を超えてしまった。日常の賑わいもコロナ前に戻ったように思う。そのためか、ホテルの宴会場には200人近くの人が集まった。講演内容の一部を紹介させていただく。
18歳の時に家出同然で上京した演者が職務質問を受けたお巡りさんが東京での友人第一号になった。そのお巡りさんに連れていってもらった居酒屋で、今度は大きなロマンを持つ将来の師匠と仰ぐ人に出会って野菜の行商を始めた。毎日300円の倹約生活に感動した農家の人に可愛がられ産直方式の店がヒットし、その利益で六本木に飲食店を開店した。お客様を徹底して喜ばせる方法で大繁盛した。21歳で故郷の伊勢に戻り、飲食店「クロフネ」をオープンした。26歳の時に若者が本当に、楽しく、みんなに祝福されるようなレストラン・ウエディングを始めた。現在では年間50組の手作り結婚式を経営している。演者は最後にお金を稼いで「金持ち人生」になるよりも「人持ち人生」のほうが数倍楽しいと結んだ。
さて、私のほうはこの4月から院長を辞して4年目に入る。この3年間はコロナに煩わされたと言える。院長を息子に譲っていたので、彼が柔軟な頭で考え対応してくれたお陰でこの難局をどうにかこうにか乗り越えることが出来た。今までのように院長目線で患者さんに接することがないので、ある意味で新鮮な診療を楽しむことが出来ている。6月には75歳を迎え、後期高齢者の仲間入りをする。が、今のところ体の調子はすこぶる良い。歯科を受診した時、先生から歯が一本も欠けてなくて31本あることを褒められて気をよくしている私である。昨年末に自費出版書「風に吹かれて春夏秋冬」を上梓した。次は何に挑戦しようかと揺蕩う心情を思い浮かべては私なりに悦に入っている今日この頃である。